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仙台高等裁判所 昭和58年(行コ)3号 判決 1983年12月23日

控訴人(原告) 福島県日産自動車協同組合

被控訴人(被告) 郡山市長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。控訴人が昭和五五年八月二九日付でした原判決別紙不動産目録記載の土地についての地方税法六〇三条の二第一項所定の特別土地保有税免除申請に対し、被控訴人が昭和五五年一〇月七日付第五四号でした免除否認の決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は、左記のほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。ただし、別紙不動産目録の「所在」の記載中「愛石前」を「愛宕前」と訂正する。

第一控訴人の主張

一  原判決は判決書の末葉に於て「そもそも、特別土地保有税は、当該土地の取得者において、基準日である七月一日又は一月一日に過去一年間の土地の取得面積の合計及び税額を算出したうえで申告する申告税とされており、本件土地の取得については昭和五五年七月一日又は昭和五六年一月一日のいずれをも基準日とする納税申告が可能で、右納税義務の免除の申請もこれに合わせてなすものであるから、本制度のあり方が、大規模な建築をなす者にとつてことさら公正を欠く結果をもたらすものともいえない」と判示している。

二  果して然らば郡山市は控訴人に対し「昭和五五年八月に申告したのでは免除申請が否認される虞れがあるから、昭和五六年二月に申告するよう」指導すべきであつた。

けだし「信義誠実の原則」は私法に於てのみ妥当する原理ではなく、行政法に於ても十分に尊重されねばならないのであるから(有斐閣法律学全集田中二郎著行政法総論一八三頁)、郡山市としては税収を挙げる為、法律的に無知な納税者が陥穽に落ちるに任せて顧みないという態度をとることは許されないからである。

三  ところが郡山市の担当者は、昭和五五年七月頃、控訴人に対し再三にわたつて本件土地の取得につき特別土地保有税の申告を行うよう求めたので、控訴人は昭和五五年八月二九日右申告並びに免除認定申請を行つた。

四  これに対し被控訴人は右免除認定申請を否認したのであるが、控訴人が昭和五五年八月三一日を期限とする申告を見送り、昭和五六年二月二八日を期限とする申告を行えば、その基準日たる昭和五六年一月一日現在では、本件建物が完成していたことは勿論であるから、免除認定を受けることができたのである。

五  右のように免除を受け得る可能性の高い昭和五六年二月に申告できることを控訴人に伝えず、むしろ昭和五五年八月に申告するよう積極的に控訴人に勧めた上で、免除否認を行うことが信義誠実の原則に照し、違法であることは明白である。

六  右のとおり控訴人は原審に於て主張した事由の外、右信義則違反を理由として、免除否認決定の取消を求める。

第二被控訴人の主張

一  控訴人の主張している内容を要約すれば、結局のところ原判決理由を援用して、本件特別土地保有税の取得分について、昭和五六年一月一日を基準日とする免除申請をすればその時点では地方税法第六〇三条の二第一項一号の規定による「恒久的な利用に供されている」から納税義務が免除されるべきであるとされる。すなわち、本件について控訴人は同法第六〇三条の二第一項の規定における同法第五九九条第一項第三号の「七月一日(昭和五五年七月一日の基準日)前一年以内基準面積以上の土地を取得」した規定に限定するものではなく、同条第一項第二号の「一月一日(昭和五六年一月一日の基準日)前一年以内に基準面積以上の土地を取得」した条文の適用も可能であつたとしていることにつきる。

二  土地の取得に係る特別土地保有税の納税義務の免除については、地方税法第六〇三条の二第一項(現行二項)の規定における同法第五九九条第一項第二号又は第三号の規定によりその申請をし、免除認定に当つては、同法第六〇三条の二第五項(現行七項)において準用する同法第五八六条第四項の規定により申告納付するべき日の属する年の一月一日又は七月一日の現況を基準日として判断するものとされている。

三  ところで、郡山市における基準面積は地方税法第五九五条第二号の規定により五〇〇〇平方メートルであるが、控訴人は昭和五五年三月一八日に右基準面積を越えた合計面積九五三〇平方メートルを取得し、同年五月一三日に所有権移転登記をしたものである。

然るに、これに係る特別土地保有税の取得分の申告納付については、前記地方税法第五九九条第一項第二号、第三号により昭和五五年七月一日又は昭和五六年一月一日の基準日に該当するものであるが、控訴人が取得した土地についてはほぼ一括して昭和五五年五月一三日に所有権移転がなされているのであるし、五〇〇〇平方メートル以上を買受けたので基準日を同年七月一日とすべきであり、仮に控訴人が主張するようにその基準日を昭和五五年七月一日でなく昭和五六年一月一日とした場合は、地方税法第五九九条第一項第三号の「(昭和五五年七月一日の基準日)前一年以内に基準面積以上の土地(郡山市においては五〇〇〇平方メートル以上)を取得した者に係る土地の取得に対して課する特別土地保有税については、同年八月三一日までに申告納付をしなければならない。」という規定に反することとなる。

四  また、土地の取得に係る基準日を年二回としたのは、分割取得による租税回避行為を防止するためとされている。従つて、取得の時期から相当長期間を経過した後に納税するという場合が生じうるが、納税義務の発生と納期限はできるだけ近い方が望ましいという考えから申告納期限については、それぞれ基準日の二ケ月後の二月末日と八月三一日とされたものである。

具体的な例としては、取得した土地の合計面積が七月一日の基準日では基準面積に達しないがその後の取得により一月一日の基準日では基準面積に達する場合があるが、この場合は一月一日を基準日として申告納付することになる。また、取得した土地の合計面積が七月一日の基準日で基準面積に達しており、更にその後の取得があり一月一日の基準日でも基準面積以上である場合があるが、この場合はそれぞれを基準日として申告納付することになる。ただし、七月一日の基準日において申告納付した分については一月一日を基準日として申告納付する分から除かれるものである。

五  本件の如きは、昭和五五年三月一八日に合計面積九三五〇平方メートルを取得しているので、当然その基準日は昭和五五年七月一日としなければならないものである。なお、昭和五六年一月一日の基準日においても申告納付の義務はあるが、本件の場合その後の土地の取得がなかつたので、取得に係る昭和五六年一月一日を基準日としての申告納付は必要ないものである。

六  従つて、控訴人が主張するように申告者の勝手な都合によつて基準日を選択できることを意味しているものではない。

一月一日又は七月一日前一年以内に取得した土地の合計面積が五〇〇〇平方メートルになつたものであれば、これに達した一番近い一月一日又は七月一日を基準日としなければならないものである。

(証拠関係)<省略>

理由

当裁判所は控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は左記のほか原判決の理由と同一であるから、これを引用する。ただし、原判決一二枚目裏七行目の「地方税」を「地方税法」と訂正する。

原判決一七枚目表七行目の「特別土地保有税は、」から同枚目裏三行目までを次のように訂正する。

「特別土地保有税は、当該土地の取得者において、基準日である七月一日又は一月一日に過去一年間に取得した土地の合計面積及び税額を算出した上で申告納付する税であるが、本件の場合、控訴人は昭和五五年五月一三日に基準面積五〇〇〇平方メートルを越える九五三〇平方メートルの土地を取得したのであるから、最初に到来する基準日である同年七月一日を基準日として納税申告をすべきであり、昭和五六年一月一日を基準日として納税申告すべきではない(昭和五七年法律第一〇号による改正前の地方税法六〇三条の二第五項、五八六条四項、五九九条一項二号、三号)。たとえば、昭和五五年五月に三〇〇〇平方メートルの土地を取得し、同年九月に三〇〇〇平方メートルの土地を取得した場合は、同年七月一日の基準日には土地の合計面積(三〇〇〇平方メートル)が基準面積に達していないから、申告の要はないが、昭和五六年一月一日の基準日には土地の合計面積(六〇〇〇平方メートル)が基準面積を越えているから、申告しなければならない。本件のように、五月に取得した土地の合計面積が基準面積を越える場合には、右の場合と異なり、取得後最初に到来する基準日であるその年の七月一日を基準日として申告すべきものである。このように解すると、控訴人主張のように、大規模建築の場合は、基準日までに建物の建築が不可能であり、したがつて納税義務の免除が得られず、小規模建築の場合と比較して不公平な結果になるけれども、それはやむをえないところである。

また、前記のとおり、本件の場合昭和五五年七月一日を基準日として申告すべきであるから、当審の控訴人の主張は採用できない。」

よつて、原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤幸太郎 石川良雄 宮村素之)

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